2017年1月1日日曜日




第5回 多額売却市場とその他の市場


 これまで47市場を全体として眺めてまいりましたが、第1回で見たように、不動産競売市場には売上げ額の多い市場(多額売却市場)とその他の市場とがあります。これらの市場で、乖離率に違いがあるでしょうか?


 年間売上げ額が8年平均で50億円を超える(第1回参照)、次の10市場を多額売却市場として、それ以外の37市場と比較してみることにいたします。

①東京地裁本庁(463億円)、②大阪地裁本庁(277億円)、③千葉地裁本庁(132億円)、④横浜地裁本庁(108億円)、⑤東京地裁立川支部(106億円)、⑥名古屋地裁本庁(84億円)、⑦さいたま地裁本庁(74億円)、⑧札幌地裁本庁(69億円)、⑨大阪地裁堺支部(57億円)、⑩福岡地裁本庁(51億円) 


 細かいデータは割愛して、 高価物件(価格帯Ⅲ以上、すなわち基準価額1,000万円以上の物件)と平価物件(価格帯ⅠⅡ、すなわち基準価額1,000万円未満)とに分けて、多額売却10市場と37市場の乖離率を見てみると、次の2枚のグラフのとおりです。

 なお、この平均乖離率は、これまでと同様、各市場の価格帯別の中間乖離率を単純平均した値であり、平価物件は価格帯ⅠとⅡ、高価物件は価格帯ⅣとⅤの中間値です。





 高価物件の乖離率は、多額売却10市場が断然高い。但し、多額売却10市場は、平成25年(2013年)にも平成19年(2007年)より低いが、37市場は、平成25年(2013年)には平成19年(2007年)を超えて上昇している。

 これに対して、平価物件の乖離率は、37市場も多額売却10市場と遜色は見られず(特に、平成20年(2008年)、平成21年(2009年)、平成24年(2012年)、平成25年(2013年))、37市場の乖離率は平成23年(2011年)には平成19(2007)を超えて上昇している。


 したがって、多額売却10市場の乖離率は高い(すなわち、高く買われている)が、平成22年(2010年)以降の活性化(すなわち、高く買われるように変わった)が顕著なのは37市場であると理解することができると思います。


 少し細かくなりますが、以上の統計の元になった、価格帯ごとの平均中間乖離率をお示ししておきます。以下の5枚のグラフのとおりです。









  この5枚のグラフのうちでは価格帯Ⅱ及び価格帯Ⅴのグラフが注目されます。

 37市場の平価物件の乖離率が多額売却10市場と遜色ないくらいに高まった上記の4年間は、価格帯Ⅱの乖離率は37市場の方が上回っています。また、価格帯Ⅴは、多額売却10市場の平成21年(2009年)の落ち込みが大きく、他方、37市場は平成25年(2013年)には平成19年(2007年)を上回っています。



 以上のような活性度の変化を、例によって、基準価額の2倍以上で買われた割合(価格帯別)で見てみることにします。次の2枚のグラフのとおりです。





 しかしながら、多額売却10市場といい、37市場といっても、以上に述べた活性度の変化は、各市場単位で眺めると、決して単純ではありません。不動産競売市場は均一ではありません。そのことをお示しする意味で、最後に、47市場の中間乖離率と売上げ乖離率とをグラフにして掲げておきます(データ省略)。
 但し、8年間すべてを表示することは困難ですから、掲げる年度は平成19年(2007年)、平成21年(2009年)、平成25年(2013年)の3か年とさせていただきます。


 各市場の中間乖離率(全価格帯通算の中間値)は次のとおりです。(平均的市場では、既述のとおり、これは平価物件の乖離率です。)


 各市場の売上げ乖離率(売上げ総額の基準価額総額に対する比率)は次のとおりです。(平均的市場では、既述のとおり、これは高価物件の乖離率です。なお、性質上、ある年度だけ突出した値となる場合があります。)




 本稿は、あくまでも47市場の活性度を鳥瞰することを目的としていますから、個々の市場の活性度については触れません(個々の市場の活性度については、筆者のホームページ「不動産競売価格統計」等をご覧いただきたいと思います。)。地域差についても、47市場の分析だけで確定的な判断はできませんから割愛させていただきます。

 当ブログを最後までお読みいただき、ありがとうございました。  (終わり)