2016年12月18日日曜日




第2回  売上げ乖離率

           (お詫びとお知らせ) 第2回をアップしました。年内に第5回まで進みたいと考えています。大変遅くなりましたことをお詫び申し上げます。            平成28年12月18日 曝松公平

 不動産競売市場の活性度は、基準価額の何倍で買われたか、すなわち乖離率(買受け倍率)を調べて判断するほかはありません。(筆者のホームページ「不動産競売価格統計」参照)

 1件ごとに、買い値を基準価額で割って算出した乖離率は、データが十分に多ければ、80%から300%以上まで幅広く分布します(注1)

(注1)筆者のホームページ「不動産競売価格統計」所収の平成231月の拙稿「世界金融危機後の不動産競売価格」には、59市場の乖離率を10%刻みで23区分して平成19年から平成22年まで4年間の動きをグラフにしたものを掲げています。ご参照ください。


 不動産競売「戸建て」47市場(以下、単に「47市場」と言います。)の全件の買受け倍率を、基準価額の①1倍未満、②1倍以上1.5倍未満、③1.5倍以上2倍未満、④2倍以上の4段階に分けて、「件数」を調べてみた結果は次のグラフのとおりです。データは下表のとおりです。





 件数ではなく「割合」で見てみると、次のグラフのようになります。


 上の割合グラフを元にして、基準価額の①1倍以上、②1.5倍以上、③2倍以上で買われた割合の年度変化を見てみますと、次のグラフのとおりです。


 このグラフから、47市場では、平成20年(2008年)、平成21年(2009年)には基準価額1倍未満の買受けが増え、活性度は低下したが、平成22年(2010年)以降は高い買受け倍率による買受けが増え、活性化したことが分かります。

 特に、平成25年(2013年)には、物件の84%は基準価額1倍以上で買われ(基準価額未満の買受けは16%、しかも、物件の半数(50%)は基準価額の1.5倍以上で買われ、さらに、物件の2割(22%)が基準価額の2倍以上で買われています。

 しかしながら、以上のような乖離率分布グラフによって市場の活性度を認識するのは少々面倒です。もっと手っ取り早く市場の活性度の年度変化を掴むための方法として、乖離率群を「数値化」するという方法があります。

 すなわち、平均乖離率です。これは、一つの市場の乖離率群を平均することによって代表値(平均乖離率)を求め、それを年度比較する方法です。

 平均値の捉え方もいくつかありますが(筆者のホームページ「不動産競売価格統計」参照)、ここでは、各市場の「中間乖離率」(注2)を元に、それを単純平均(注3)した値を「47市場の平均乖離率」と考えることにいたしましょう。

(注2)小規模市場の場合などでは、データが少ないため、「外れ値」によって誤差が大きくなる場合があります。そこで、外れ値の影響を受けにくい「中間値」を各市場の平均値としたいと考えます。

(注3)既に各市場の平均値に「中間値」を採用していますので、47市場を平均するに当たっては単純平均、すなわち全データを合計してデータ数で割る、普通の平均方法によりたいと考えます。

 計算してみますと、「47市場の平均乖離率」は8年間次のグラフのとおり変化しています。

 47市場の平均乖離率は、平成20年(2008年)、平成21年(2007年)と連続して落ち込みましたが(注4)、平成22年(2010年)以降は高まりました。先ほどの「乖離率(買受け倍利率)の割合の変化」グラフを数値化すると、このようなグラフになるわけです。

(注4)売却件数も、売却総額も、8年間で最も多かった平成21年(2009年)が、平均乖離率(したがって市場の活性度)は最も低いという結果になります。

 平成19年(2007年)を基準に眺めますと、一旦低下した平均乖離率が平成19年(2007年)のレベルに回復したのは平成23年(2011年)であり、平成24年(2012年)は停滞したものの平成25年(2013年)には8年間で最も高くなりました。

 売却件数が減少に転じた平成22年(2010年)以降は、47市場の平均乖離率は上昇を続けたというわけですが、この流れを「もうひとつの乖離率」によって検証してみたいと思います。

 もうひとつの乖離率とは「売上げ乖離率」、すなわち、市場の売上げ総額の基準価額総額に対する比率です。平均乖離率が1件ごとの乖離率を調べた、いわばミクロ乖離率であるのに対し、売上げ乖離率は市場全体を見た、いわばマクロ乖離率ですが、ともに市場の活性度を示す指数であり、同様の変化を示すはずです。

 「47市場の売上げ乖離率」は、47市場を一体と見て、その合計額に基づいて算出する方法(いわば、合計売上げ乖離率)を採ることといたします。この方が、各市場の売上げ乖離率を計算した上でそれを平均するという方法(いわば、平均売上げ乖離率)よりも、47市場の変化がはっきりするからです(注5)

(注5)下表の「平均乖離」の値は、47各市場の売上げ乖離率を元にして、それを単純平均した「47市場の平均売上げ乖離率」です。下表の「合計額乖離」、すなわち「47市場の売上げ乖離率」よりも低い値となります。いわば平均と合計の違いです。ご参考までに。






 早速、47市場の売上げ乖離率を求め、それを先の平均乖離率グラフに追加してみます。次のグラフのようになります。47市場の活性度を表す最も基本的なグラフです。


 売上げ乖離率も、平成21年(2009年)が8年間で最も低下しており、それ以降は平成25年(2013年)には高まっています。一見、平均乖離率と同様の「流れ」を示しているように見えます。

 けれども、2つの折れ線は平成23年(2011年)、平成24年(2012年)の形状も少し違うようですが、それ以上に大きく違っているのが平成19年(2007年)の高さです。
 平成19年(2007年)は、売上げ乖離率は8年間で最も高い値165%を示していますが、平均乖離率は140%と高いとは言えません。

 起点となる平成19年(2007年)についていきなりこのような状況が示されると、グラフを読む側としては戸惑いを覚えざるをえません。どういうことでしょうか?

 この問題を考えるために、まず、平成19年(2007年)と平成25年(2013年)の比較を行ってみたいと思います。平成19年(2007年)と平成25年(2013年)の47市場は、何が、どう違うのでしょうか?これが明らかになれば、47市場の8年間の動きもおのずから判明する可能性があります。

 つづく(次回は「第3回 平成19年(2007年)と平成25年(2013年)」)   










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